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姉なるもの:村上春樹「海辺のカフカ」


オイディプスが受けた予言は父親を殺し、母親と交わるというものだったが、「海辺のカフカ」の少年にはこれに加えて、姉を犯すという予言が下されていた。

実際に少年は、生霊になることを通して父親の殺害にかかわり、母親である佐伯さんと性交をした。だが、姉なる人とは、現実に交わることはなかった。この物語には、少年の本当の姉は登場しないのであり、それにかわって登場する年上の女性さくらは、少年に庇護者的に接する一方、セックスを許すことはなかった。

このさくらと、少年は四国へ向かうバスの中で出会う。さくらは少年の隣の座席に移ってきて、そこで安心したように眠るのだ。そんなさくらの肉体を身近に感じて、少年はペニスが勃起するのを感じる。

「僕はその先にあるデリケートな生地の下着を想像する。その下にある柔らかい乳房を想像する。僕の指先で固くなるピンク色の乳首を想像する。想像したいわけじゃない。でも想像しないわけにはいかない。その結果、もちろん僕は勃起する。どうして身体の一部がこんなに硬くなれるんだろうというくらい硬く勃起する」

僕はさくらが自分の姉と同じ歳であることを知って、さくらを姉に置き換えて考える。でも本当の姉と思うわけではない。僕は小さい頃の姉の写真を持っているが、その写真のイメージとさくらのイメージとは一致しない。第一写真を見たさくら自身がそれを自分だとは認めない。

少年は父親殺しのショックから気を取り直すために、さくらの投宿先に身を寄せる。さくらは少年を温かく迎えてくれる。少年が途方にくれているのを感じると、添い寝までしてくれる。

「誤解されると困るんだけどさ」と彼女はいう。「よかったらこっちにおいで。一緒に寝よう。私もうまく寝付けないんだ」
「僕は寝袋から出て、彼女の布団の中に入る・・・
「変なふうに考えないでね。お姉さんと弟みたいなもんだよ。わかった?
「わかった、と僕はいう」

しかし、さくらと一緒にいるかぎり、僕は絶え間なく勃起していなくてはならない。そのたびに僕はさくらの裸を想像しながらマスターベーションをする。それはある意味で罪深いことだ。そこで僕はさくらのもとを立ち去る決心をする。

こうして少年はさくらと離れ、大島さんや佐伯さんとの共同生活に入っていく。

そんな少年が夢の中とはいえ、さくらとセックスするのは佐伯さんとセックスした後のことだった。少年は佐伯さんとのセックスを思い出すと、はげしく勃起するのを感じる。しかし佐伯さんとのセックスの余韻を大事にしようと思って、マスターベーションを我慢する。僕のペニスはだから、いきり立ったままで放置される。

いきり立ったペニスの熱を冷まそうとするかのように、少年は夢の中でさくらをレイプする。そして、その興奮の中で夢精するのだ。

「君は思考のスイッチを切る。そして彼女を抱き寄せ、腰を動かし始める。ていねいに注意深く、それから激しく。・・・さくらは目を閉じて動きに身をゆだねる。彼女はなにもいわない。抵抗もしない。彼女は表情を殺し、横を向いている。でも君は彼女が感じている肉体的な快感を、君自身の延長にあるものとして感じることができる。君には今ではそれがわかる。樹木は重なりあい、黒々とした壁となって君の視界をさえぎる。鳥はもうメッセージを送らない。そして君は射精する。」

こうして少年によるさくらの夢の中でのレイプは、姉と交わるだろうという予言の、メタフォリカルな成就を意味することになろう。




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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